2005-02-04

菩提樹はさざめく

『菩提樹はさざめく』(三宅幸夫著、春秋社)とういう本を読んだ。昨年末の出版広告で気づいてはいたが、読売新聞の紹介記事を読んで、買わなければと思った。

連作歌曲集『冬の旅』の評論であるが、帯に「ヴィルヘルム・ミュラー&フランツ・シューベルト/冬の旅/詩と音楽の協働」と書いている通り、一般には凡庸な詩人と評価されてきたミュラーの詩にも音楽と同等の敬意をはらっている。著者は、まず詩を丹念に読み、次に音楽を分析して、作曲家が詩から何を読み取り何を切り捨てたかを明らかにしていくという姿勢を貫く。

第17曲『村にて』で、シューベルトは当時の流行オペラの旋律を引用して皮肉なメッセージを送ったという。これも、シューベルトの一面を示すものとして興味深い。

『冬の旅』について、吉田秀和は「青年のときは別だが、大人になってしまったあと、この曲はいつ聴いたらいいのだろう?」(『シューベルト賛』吉田秀和作曲家論集第2巻所収、音楽の友社)と言ったが、逆に、年をとらないとこの曲にまともに向かい合えないのではないかと思う。『菩提樹はさざめく』の著者も、59歳にして「最近ようやく、シューベルトの音楽に人間存在そのものの痛みを感じるようになった」のだから。

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2004-10-04

シューベルトのオペラ

東京芸大の学生とOBによる『シューベルトのオペラ』という演奏会(28日)に出かけた。シューベルトが1815年、
18歳の時に書いたジングシュピールを日本初演するという珍しい催し。企画の中心人物である井川ちづる氏(東京芸大大学院非常勤講師)の『シューベルトのオペラ』(水曜社)という新刊をロビーで購入し、サインをもらうというミーハーもしてしまった。

最初に演奏された『4年間の歩哨勤務』は、劇の内容が本当にくだらない。音楽的にも、前年には『糸をつむぐグレートヒェン』、同年に『魔王』などを書いていた作曲家とは思えない。もちろんシューベルトらしさがあるとは言えるのだが、(オタクでない)普通の愛好家が聞く必要はないだろう。

が、『サマランカの友人たち』となると、翌1816年の交響曲第5番(変ロ長調)を思わせる充実ぶり。やりようによっては本格的な舞台にもかけられるのではないかと思えるほどだ。もっとも、ストーリー自体は内容が薄いので、今回のような演奏会形式の上演がちょうどいいのかも知れないし、そもそも台本が残っていないそうだ。聞きなじみのある旋律が現れ、一瞬何だったかなと思ったが、八重奏曲(ヘ長調)で変奏に使われているテーマだった。

演奏も、『4年間の歩哨勤務』ではちょっと聞きづらかったが、『サマランカの友人たち』になると安定してきて楽しむことができた。

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2004-06-22

作曲家◎人と作品シリーズ「シューベルト」

『作曲家◎人と作品 シューベルト』(村田千尋、音楽之友社)という本を読んだ。

2004年4月に刊行されたばかりの最新の伝記である。著者は以前に『シューベルトのリート 創作と受容の諸相』という本を書いていて、これは一般の音楽愛好家を第一の読者としながらも、かなり専門的な内容だった。それに比べると本書は、読みやすい「概説的評伝」であるが、リートに関する記述は前著の内容を取り入れている。

伝記部分はシューベルトや友人の言葉の引用を中心にし、シューベルトゆかりの地の案内を積極的に取り入れるなど、面白い工夫がある。巻末の資料も役に立つ。シューベルトに対する思い入れを感傷的な言葉で語ったりはしないところがいい。数あるシューベルトの評伝の中でもお薦め。

ところで、名前から、著者は女性だと勝手に思い込んでしまったが、写真を見ると男性らしい。

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